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『栗林荘記』を読む:季節のゾーン

 数年前栗林公園へ行ったときボランティアガイドの方から聞いたのだが、南湖の周りに各季節に対応したゾーンがあるという。そのことが記憶にあったので、『栗林荘記』のそれらしい記述が目に留まった。以下、『栗林荘記』に登場する順に紹介する。

 

 

即ち東すること三十余歩ばかりにして湖の南岸に出づ。岸上楓樹多し。秋冬の交、此の際を行く者は、衣袂咸な染む。墜葉水面に畳し、波為に錦を濯ふ」

(そして東に30歩ほど歩くと南湖の南岸に出る。岸の上には楓の木が多い。秋から冬へと変わる頃この付近を通る者は、衣服の袖が赤く染まる。落ち葉が水面に折り重なり、そのため波が錦[美しい織物]を洗うように見える)

最初に登場するのは晩秋のゾーン。南湖の南岸にありカエデが集中的に植えられた部分で「楓岸」と呼ばれている(地図1)

 

「泉に嗽し流に盥すれば、湖風時に来たりて衣を吹き、炎暑維之夏は考槃最たり」

(泉で口をすすぎ、流れで手を洗えば、時折南湖からの風が吹いてきて袖をなびかせる。暑い夏には考槃亭が最も優れている)

次に書かれているのは夏のゾーン。栗林公園の南東の隅、水が地下から出てきて、短い流れとなり、南湖に注ぐ部分(地図2)。『栗林荘記』の時代にはここに 考槃亭という茶室があった。

 

「山松雪を落し岡竹烟を含み、枯木箴●あり、石壁凍りて将に裂けんとす。是の時に当りて茗を煮、泉を品するは戛玉尤も宜し」

考槃亭の説明のあとすぐ続いて冬のゾーン。栗林公園の西部、西湖のほとり(地図3)にかつては戛玉亭という茶室があった。現在は日暮亭という茶室がある。

 

「南湖半面を掩い、春風微瀾を起こし、桜花白雲の如く、英英として将に流れんとすれば、乃ち花を攀ぢて香を帯び、台に上りて岡を下り、時に愛駿に息へば、煙霞人を挨す。留春忘れず、東に望めば則ち飛来●に当りて落ち、偃月其の前に横たはる。

島嶼水に浮かび、右に顧みれば則ち南岸巾子・冠松に連なりて開け、左に眄れば則ち渚山は飛猿・桟道と高下相献酬す」

(??)

正確な解釈がわからないのだが、大体の感じで言えば春のゾーン。南湖の北東(地図4)にかつて留春閣という建物があり、周囲にサクラの木が多かった。近くには迎春橋という名の橋もある。

晩秋のゾーン、楓岸(地図1)

夏のゾーン、吹上、考槃亭跡(地図2)

写真左奥に水源がある。その左に考槃亭という茶室があった。

冬のゾーン、戛玉亭跡(地図3)

現在は別の茶室がある

写真奥の岸壁は赤壁(石壁)

春のゾーン、留春閣跡地(地図4)

ここに留春閣という建物があり周囲にはサクラの木が植えられていた